歯根の治療(歯内療法)とは?
「歯根の治療(歯内療法)は何をしているの?
では、歯根治療とは何でしょう?
第1章でも説明しましたように、
歯の根(歯根)の中には、「根管」という神経や血管が通っている空洞があります。(図15)
そして、歯は「木」と同じように、身体から栄養分を補給しようと、多くの根管をはりめぐらせます。(図16)
つまり、歯の神経は1つではありません。
顔が人それぞれ違うように、根管も歯によって様々であり、1つとして同じ形をしているものはありません。
レントゲン写真で確認できるものもありますが、その大部分は細すぎて写らないことが多く、歯科医師の経験によるところが大きいのが現状です。
では、よく歯科医師が「神経をとる」とか「歯の根の治療をする」と説明します。
「歯の根の治療をする」とは、どのようなことを行っているのでしょうか?
これは、「ファイル」と呼ばれる針金状のものを根管の中に挿入して、パイプ掃除のように根管にこびりついた汚染された神経や細菌を綺麗にこすりとっているのです。(図17)
そして綺麗に中を洗い流し、ゴム状のものでしっかり封鎖し、身体の中に細菌が侵入しないように蓋をしているのです。
(図18)
ここまで話を進めていけば、疑問をもつ人もいると思います。
「根管の細い枝の中まで、きれいに掃除できたの?残ったらどうなるの?」
「どうしたら、きれいになったと分かるの?」
そうなんです、不可能なんです。だから、神経をとったはずの歯が化膿してきたり、腫れてきたりするんです。
現代の歯科医療は進歩してきたとはいえ、細い根管の中の汚れを完全に取り除く方法はありません。
なおさら、根の周りの細菌を取り除くことは不可能なのです。
「歯根の治療(歯内療法)の限界」
では、根尖病変(根の周りの骨が溶けてしまった状態)は治らないのでしょうか?
そのまま抜けてしまうのでしょうか?
そんなことはありません。生物は、「免疫」という素晴らしい機能を持っています。
たとえ、歯科医師が直接掃除できなかったとしても、大体60%は自然に治ります。
つまり、根の中をできるだけきれいに掃除することによって、根の周りの細菌の栄養源を遮断します。
そして、その周囲からは防衛軍である免疫応答細胞が進軍してきて、細菌を攻撃するのです。
この防衛軍が細菌を駆逐することができれば、根尖病変は治っていきます。(図19)
では、防衛軍が敗退した残りの40%の運命はどうなるのでしょう?
この場合、慢性化という状態に陥って、細菌が根尖病変の中で増殖し、歯槽骨を徐々に溶かしていきます。しかも、症状はほとんどないため、本人は強い自覚症状をほとんど感じません。
皆様も経験はないでしょうか?
別表のような症状が1つでもあるようなら、ぜひレントゲン写真で確認をしておくことをお勧めします。
- 歯茎に「できもの」ができて、出たりひいたりを繰り返す
- 歯がゆれている
- 噛んだら違和感がある
このような差はなぜ起こるのでしょうか?
治るだけの免疫力がない、強い細菌が存在している…など、様々なことが考えられます。
でも、一番多いのは根管の中に取り残された細菌の量なのです。
つまり、余程大きな根尖病変でないかぎり、根の中を完全に掃除しきってしまえば根の周りの骨は治ってきます。ただ、根管の中がかなり汚れている、ひどい場合には全く掃除ができていないなどの場合には、まず治る見込みはありません。
ただ、それが歯科医師のミスで取り残した場合には、歯科医師自体の責任ですが、根管は複雑で、なかには根の先で直角に曲がったもの、二股に分かれたもの、枝の多いものなど、誰が掃除しても掃除しきれない形をもった根管が存在するのです。
誰の歯がそんな形をしているのか?それは誰にも分かりません。
そして根管の形が分かったところで、器具が直角に曲がらない以上、世界中のどの歯科医師が治療したところで治せないのが現実なのです。
つまり、これが「歯内治療の限界」なのです。